「無戸籍者」問題の原因?嫡出推定の制度が見直しへ【現役弁護士が解説】

「無戸籍者」問題の原因?嫡出推定の制度が見直しへ

「無戸籍者」問題をご存知でしょうか?母親が生まれてきた子どもの出生届を出さない結果、子どもが戸籍を持たない無戸籍の状態となる問題です。戸籍制度を採用する日本において戸籍を持たないことは、就学や就職、結婚など社会生活を営む上で大きな支障を生じます。

母親が子どもの出生届を出さない原因の7割程度が、民法上定められた「嫡出推定」と呼ばれる制度にあるといわれています。嫡出推定とはどのような制度か、なぜ無戸籍者を生み出すのか、また現段階における嫡出推定の見直しに関する議論の方向性について解説します。

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嫡出推定見直しの背景

嫡出推定の制度は、明治時代からの長い歴史を持ちます。そもそも、嫡出推定とはどのような制度か、なぜ今になって嫡出推定が見直されることになったのかを説明します。

嫡出推定とは

嫡出推定とは、一定の要件のもとで生まれた子どもを夫又は元夫の子どもと推定する制度です。以下で引用する民法772条が嫡出推定について定める条文です。

民法第772条 1.妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。 2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

民法772条によれば、次のケースにおいて嫡出推定が及ぶこととなります。

・婚姻期間中に懐胎した子ども

・結婚から200日経過後に生まれた子ども

・離婚等から300日以内に生まれた子ども

嫡出推定の制度が民法で定められたのは明治時代です。この時代、DNA鑑定の技術は未発達であり、子どもの父親が定まらないと子どもにとって不利益が大きいことから、一定の要件を満たす場合には夫又は元夫の子どもと推定する嫡出推定の制度が必要でした。

もっとも、嫡出子であることは「推定」されるに過ぎません。したがって、客観的な事情から夫又は元夫の子どもではないといえる場合には、嫡出子であることの推定を覆すことができます。

例えば、懐胎した時期に夫が長期出張、刑務所への収監、別居等があり妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが明白であるような場合です。このような状況で生まれた子どもを、「推定を受けない嫡出子」ということがあります。

嫡出推定を覆す方法

嫡出子であることを否定するには、3つの方法があります。

推定を受けない嫡出子の場合

上で説明したように、客観的な事情に照らして夫又は元夫の子どもではない可能性が極めて高い「推定を受けない嫡出子」が嫡出子ではないことを正式に確定するためには「親子関係不存在確認の訴え」によることとなります。

このため、母親が推定を受けない嫡出子について元夫の子どもとして出生届を出したくないという場合には、まず親子関係不存在確認の訴えを起こして、その判決を得てから出生届を提出する必要があります。

なお、血縁上の父親が誰かはっきりしている場合には、その血縁上の父親に対して強制認知等を求める手続をとった上で、血縁上の父親を戸籍上の父親とする出生届を提出することもできます。

離婚後に懐胎した場合

実務上、離婚後に懐胎したことの医師の証明書を用意できる場合には、この証明書を市町村の窓口に提出すれば、父親を元夫としてない出生届が受理されます(平成19年5月7日付け法務省民一第1007号民事局長通達)。

嫡出推定を受ける場合

「推定を受けない嫡出子」にあたるような事情もなく、民法772条の要件を形式的に満たしてはいるものの実際には血縁上の親子関係がないということがあります。

このように民法772上の嫡出推定を形式的に受けるケースで父子関係を否定するには「嫡出否認の訴え」という特別の手続きを踏む必要があります。嫡出否認の訴えを起こすことができるのは、夫又は元夫のみです。また、訴えを起こせる期間についても夫が子どもの出生を知ってから1年以内と厳しい制限があります。

嫡出推定制度の問題点

上で説明したように、少なくとも婚姻期間中に懐胎した子どもについては出生届を提出すると夫又は元夫の子どもとして戸籍に記載されることになります。仮に、血縁上の父親が別に存在している場合であっても、出生届を受け付ける市町村の窓口では血縁関係を適切に判断することが困難であることから、形式的な基準によって父親が定められるのです。

このため、婚姻期間中に懐胎した子どもについて夫又は元夫を父親としたくない場合には、親子関係不存在確認訴訟又は嫡出否認の訴えによるしか方法がありません。しかし、嫡出否認の訴えは、父親しか行うことができないため父親の協力が必要となります。また、いずれの手続をとる場合でも当事者として父親が関わってくることになります。

しかし、嫡出推定が及ぶにもかかわらず血縁上の父親が異なるというケースでは、母親が夫によるDV被害から逃げているなど複雑な事情を抱えていることが少なくありません。このため、次のような理由によって母親が裁判上の手続をとらず子どもの出生届を提出しないままにしてしまうことがあります。

・夫又は元夫による裁判手続への協力が得られない

・裁判所での手続をとること自体に手間や費用がかかる

・夫又は元夫からDV被害を受けており住所や出産の事実を知られたくない

嫡出推定制度による無戸籍者の発生

母親が裁判上の手続もとらず、また出生届も提出しない場合には、生まれた子どもはいわゆる「無戸籍者」となります。日本において戸籍は社会生活を営む上での重要な役割を果たしていますので、子どもが無戸籍者となると子どもは非常に大きな不利益を受けることになります。

例えば、戸籍がないと住民票を作ることができません。この結果、乳幼児の定期検診を受けることや小学校などへ進学する際の就学通知を受けられないことがあります。また、大人になってからも無戸籍のままだと、結婚の際に支障が生じることや、パスポートを作成できないため海外に行けないなど人生の全般を通じて大きな不利益に直面します。

子ども自身が無戸籍の状態を解消しようとすれば、親子関係不存在確認訴訟を起こす方法があります。しかし、親子関係の不存在が認められるためには、懐胎時期に別居等によって両親が性的関係を持つ機会がなかったことを証明する必要があります。このような証明ができない場合には、夫又は元夫を父親とするしか無戸籍を解消する方法がないことになってしまいます。

2019年9月10日時点で判明している無戸籍者は累計2548名です。このうち、親子関係不存在訴訟によって戸籍を取得できた人が1727名いる一方、無戸籍を解消できていない人が821名も残っています。母親への調査において、子どもの出生届を提出しなかった理由として「夫の嫡出推定を避けるため」と回答したものが無戸籍となっている821名のうち78%にものぼっています。

このように、明治時代においては主に子どものための制度であった嫡出推定が、実際には無戸籍者を生み出し、子どもに大きな不利益を与えているというのが実情なのです。

嫡出推定の見直しの方向性

嫡出推定に関しては、以上のような問題点が指摘されてきたことから政府において見直しに向けた議論が進められています。そこで、現時点における嫡出推定制度の見直しの方向性についてご紹介します。

嫡出推定の見直しに向けた政府の動き

嫡出推定は、離婚や再婚などの件数が少なくDNA鑑定の技術も未発達であった明治時代に作られた制度ですが、現代ではDNA鑑定もあることから血縁上の父親を特定することや元夫と子どもの親子関係を否定する証拠を用意することはそれほど難しいことではありません。

このため、従来の嫡出推定の制度は見直すべきであると考えられています。政府は、2019年に嫡出推定の見直しに向けた議論を開始しています。これを受け、法務大臣の諮問機関である法制審議会が2021年2月9日付けで嫡出推定制度の見直しについて中間試案をまとめています。

見直しにより嫡出推定はどうなる?

具体的に嫡出推定がどのように見直されるかは、まだ確定しているわけではありません。現時点で最新である法制審議会の中間試案では、大きくわけて以下の2つの方向性が打ち出されています。

出産時点で再婚していれば元夫の子どもと推定されない

現時点における法制審議会の中間試案では嫡出推定制度の見直しの方向性として、子どもの出産時点で母親が元夫以外の人と再婚していれば、再婚後の夫の子どもとする新たな制度を設けるべきとしています。

もっとも、離婚後300日以内に生まれた子どもは元夫の子どもと推定する民法772条の条文は残される見込みです。このため、離婚後に子どもを出産したが再婚はしていないというケースでは、法改正後も従来どおり元夫の嫡出推定が及ぶことになる可能性が高そうです。

そうなると、元夫のDVなどが原因で離婚をしたものの再婚はせずに出産したというケースは、今回の嫡出推定の見直しの対象にならないことになります。

嫡出否認の訴えの要件を緩和

嫡出推定を否定するための嫡出否認の訴えは、要件が緩和されて利用しやすくなる見込みです。これまで、嫡出否認の訴えは、父親と推定された夫又は元夫のみが行うことができました。また、訴えを起こす期間も出生から1年と非常に限定されていました。

これに対して、法制審議会の中間試案では、嫡出否認の訴えを未成年の子ども自身が行うことができるようにする案がまとめられています。実際には、未成年の子どもの法定代理人(親権者)となる母親が子どもに代わって嫡出否認の訴えを起こすことになるでしょう。

このほか、嫡出否認の訴えを起こすことのできる期間も3年又は5年に延長することが提案されています。

 現行法中間試案
提訴できる人父、未成年の子、子の代理人となる母・未成年後見人
提訴できる期間1年3年又は5年

嫡出推定と同時に見直される制度

嫡出推定制度の見直しと同時に、改正される見込みとなっているのが女性の再婚禁止期間の定め(民法733条)です。

女性の再婚禁止期間に関しては、もともと民法では離婚から6ヶ月経過後でなければ再婚できないという制限が女性側にのみ課されていました。この規定に関しては、女性側のみに負担を課すものとして従来から違憲ではないかと批判されていたところ、最高裁判所の平成27年12月16日の大法廷判決によって、100日を超えて女性の再婚禁止期間を定めている部分については違憲であると判断されました。

この最高裁判所の判決を受けて、平成28年に民法が改正され、現行法で女性は離婚日から100日を経過した後でなければ再婚できないとして再婚禁止期間が短縮されました。

もっとも、100日間に限って女性側の再婚禁止期間が残されたのは、前の婚姻による嫡出推定と再婚した場合の嫡出推定が100日間は重複するということが理由でした。この重複を避けるために、100日間は再婚禁止とする必要があると考えられたのです。

しかし、上で説明したように、嫡出推定制度の見直しによって、出産時点で再婚していれば元夫の子どもであるとの嫡出推定が及ばないことになれば、100日間の再婚禁止期間の規定は存在意義を失います。このため、嫡出推定制度の見直しに伴って必要がなくなる範囲において、女性の再婚禁止期間に関する規定も撤廃される可能性があります。

まとめ

嫡出推定の制度や女性の再婚禁止期間に関しては、以前から憲法に違反するのではないかとの議論もありました。実際に、これらの制度の違憲性を争う憲法訴訟も提起されています。

憲法に違反するかどうかはともかく、嫡出推定などの制度自体、現代とは時代背景や家族観が大きく異なる明治時代の制度です。したがって、現代社会にあわせて見直しをすべきことは当然といえるでしょう。

現段階では、法制審議会の中間試案が出たばかりであり、嫡出否認制度の改正に向けた具体的な議論は今後始まる見込みです。今後の議論の中で、中間試案とは異なる方向の改正となることもありますので、実際にどのように嫡出推定の制度が見直されるかはまだわかりません。

仮に、中間試案どおりに嫡出否認の訴えが見直されて子どもが元夫に訴えを起こすことになる場合や、親子関係不存在確認の訴えを起こすような場合には、基本的には元夫の所在を調査する必要があります。このため、元夫と連絡を取っていない場合には、連絡先がわからず訴えを起こせないと諦めがちです。

しかし、弁護士に依頼すれば、住民票や戸籍の附票などを職権で調査し、現住所を特定することができます。弁護士に依頼せず自分で手続を進めたいという場合でも、興信所に依頼して居場所を探してもらえる可能性はあります。

いずれにしても、子どもの将来を考えれば無戸籍とすることは望ましくはありません。元夫のDVが離婚の原因である場合にも、弁護士を代理とすることで元夫に住所を知られることなく交渉を進められることもあります。

まずは、どのような手段がありうるのか情報収集することが大切です。

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執筆者プロフィール

弁護士 松浦 絢子
松浦綜合法律事務所代表。
京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、男女問題など幅広い相談に対応している。

運営サイト:松浦綜合法律事務所公式サイト
http://matsuura-law.jp/

不貞慰謝料の特設サイト
https://tokyo-futeiisharyou.com/

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探偵社PIO編集部監修

本記事は探偵社PIOの編集部が企画・編集・監修を行いました。

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