従業員が逮捕されたら解雇できる?【元弁護士が解説#3】

自社従業員が逮捕されたら、会社の信用が失墜するおそれがあります。重大なトラブルを避けるため、従業員を解雇できるのでしょうか?

実は法律上「逮捕されただけでは解雇できない」のが原則です。後に労働紛争にならないため、正しい対処方法を押さえておきましょう。

今回は従業員が逮捕されたときに解雇できるのか、解説します。経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

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逮捕されただけでは解雇できない

世の中には「逮捕されたなら、犯罪行為をしたに違いない」「会社は重大な迷惑を被るのだから、懲戒解雇されてもやむを得ない」と考える方がたくさんおられます。確かに従業員の起こした刑事事件が社名とともにマスコミ報道さて、全国から企業へ問い合わせやクレームが殺到するケースもあるでしょう。

しかし日本の法律では「逮捕=犯罪者」ではありません。あくまで「刑事裁判で有罪判決が確定するまでは無罪が推定される」のが原則です。逮捕されただけでは「犯罪者」とはいえません。

実際、逮捕されても「起訴」されなければ、刑事裁判にならないので有罪になりません。起訴されて刑事裁判になっても「無罪」判決がでたら「犯罪者ではなかった」というお墨付きを得られます。

不起訴(起訴されないこと)や無罪になった事案で企業が先走って懲戒解雇してしまったら、「理由のない解雇」をしたのと同じです。従業員へ重大な不利益を与えてしまうため、「解雇無効」を主張されたり慰謝料を請求されたりするでしょう。

このように、「逮捕されただけでは解雇できない」のが原則です。まずはその基本を押さえておきましょう。

懲戒解雇の要件とは?

企業が従業員を懲戒解雇できるのは、どういった場合なのでしょうか?

就業規則に懲戒解雇の規定がある

まず「就業規則」に懲戒解雇の規定が必要です。懲戒解雇の規定をもうけていないのに「犯罪者だから」という理由で懲戒解雇してはなりません。

具体的には「懲戒の種類とそれぞれに該当する事由」を定めておく必要があります。

懲戒解雇の規定を置くのであれば「どういったケースで解雇するのか」についても書いておきましょう。一般的には以下のような懲戒事由が定められています。

  • 重大な経歴詐称
  • 長期にわたる無断欠勤
  • 重大な業務命令違反
  • 重大な業務妨害
  • セクハラ・パワハラ行為
  • 刑事事件で有罪となった場合

従業員の行為と懲戒解雇が釣り合っている

懲戒解雇の規定があっても、自由に従業員を解雇できるわけではありません。

従業員の問題行為と懲戒解雇という処分が釣り合っている必要があります。従業員の行為が軽いにもかかわらず「懲戒解雇」という重過ぎる処分を課したら「無効」になる可能性が高くなります。

懲戒解雇には「相当性」が要求されるのです。

参考までに、裁判所は懲戒解雇の相当性を判断するときに以下のような要素を考慮します。

  • 従業員の勤続年数

勤続年数の長い従業員は企業への貢献度も高いと考えられるので、簡単には解雇できません。

  • 従業員のこれまでの貢献度

営業成績が良い、重要なシステム開発に携わってくれた、良いアイデアをたくさん出してくれた、経営者の右腕となって会社を支えてくれたなど、これまで企業へ大きく貢献した従業員は簡単に解雇できません。

  • 問題行為の内容、重大性

従業員の起こした刑事事件が軽微で企業への影響が小さい場合、解雇は認められにくくなります。一方、重大事件を起こして企業の評判を大きく下げたケース、横領などで企業自身が被害者となったケースなどでは解雇が認められやすいでしょう。

  • 企業の営業内容と関係しているか、私生活上の行為か

企業の営業活動として行われたものであれば、影響が大きくなるので解雇が認められやすくなります。たとえば営業担当者が取引相手をだまして詐欺罪となれば、解雇できる可能性が高いでしょう。一方、私生活上の行為であれば解雇は認められにくくなります。たとえばプライベートで盗撮しただけでは解雇しにくいでしょう。

  • 企業の被った不利益の程度

犯罪行為により、企業自身がどの程度不利益を受けたかも問題となります。企業自身のお金が横領された、マスコミ報道されて信用が失墜し、大幅に売上げが減少したなど影響が大きければ解雇も認められやすくなります。一方、ほとんど何の影響もなかったのに解雇すると「重すぎる処分」とされるでしょう。

公平であること

懲戒制度の運用は「公平」でなければなりません。ある従業員のときには戒告(注意)で済ませたのに、その後別の従業員のときには解雇したら「不平等な取扱い」といえるので解雇は無効になるでしょう。

懲戒解雇を検討するときには、これまでの処分に照らして平等といえるかについても検討しなければなりません。

従業員に弁明の機会を与え、適切な手続きによって解雇した

懲戒解雇するときには「手続的な保障」も必要です。最低限、従業員に弁明の機会を与えて意見を聞いてから決定しましょう。従業員から何の意見も聞かないまま、いきなり懲戒解雇すると「違法、無効」とされる可能性が高くなるので注意が必要です。

従業員の刑事事件で懲戒解雇が認められた裁判例、認められなかった裁判例

以下では従業員の刑事事件で懲戒解雇が認められた裁判例と認められなかった裁判例をそれぞれいくつかご紹介します。

懲戒解雇が認められた事例

  • 模造刀を持って他人の住居に侵入し傷害事件を起こしたケース(横浜地裁横須賀支部昭和51年10月13日)
  • 強制性交等罪(旧強姦罪)では多くのケースで懲戒解雇が有効とされます(神戸地裁昭和53年3月3日、大阪地裁昭和55年8月8日など)
  • 電鉄会社の社員が痴漢行為で2度逮捕され、1度目は昇給停止と降格で済んだけれども2度目は解雇され、有効となったケース(東京高裁平成15年12月11日)
  • バス会社の運転手がプライベートで飲酒運転を行い、罰金刑を受けたケース(千葉地裁昭和51年7月15日)
  • タクシー会社の運転手が同僚に酒を勧めてその運転者の運転する車に乗せてもらったケース(最高裁昭和53年11月30日)
  • 女性社員に抱きついたり胸を触ったりして悪質なセクハラを行ったケース(東京地裁平成10年12月7日)

懲戒解雇が認められなかった事例

  • 深夜に酒に酔って他人の住居に侵入したケース(最高裁昭和45年7月28日)
  • 酒に酔ってけんかをしたケース(東京地裁八王子支部昭和46年10月16日)
  • 休日に飲酒運転をして歩行者を死亡させ、禁固10か月、執行猶予3年となったケース(福岡地裁小倉支部昭和48年3月29日)
  • 業務とは無関係な道路交通法違反の行為により罰金刑となったケース(鳥取地裁昭和49年5月24日)

なお交通事犯については近年厳罰化が進んでおり、刑罰が引き上げられています。それに伴い、上記の古い裁判例のケースよりは懲戒解雇が認められる可能性が高くなっているといえるでしょう。注意してください。

懲戒の種類

従業員が刑事事件を起こしたとき、解雇以外の懲戒処分を行うべきケースも考えられます。

懲戒には以下の種類があります。

  • 戒告

従業員へ口頭で注意する処分です。始末書の提出は求めません。

  • けん責

従業員へ注意をする処分ですが、始末書の提出を求めるものです。

  • 減給

給料を減らします。ただし減額できる金額については労働基準法で上限が定められているので、その範囲に収める必要があります。

  • 出勤停止

一定期間出勤停止とし、その期間には賃金を支給しません。

  • 降格

現在の役職を下げます。それに伴い、賃金などの待遇が下がる可能性もあります。

  • 諭旨解雇

重大な問題がある場合において、懲戒解雇を避けるために退職勧奨を行い従業員から「退職した」かたちにする処分です。

  • 懲戒解雇

重大な問題を起こした従業員を企業側が一方的に解雇する処分です。懲戒処分の中で最も重いものとなります。

従業員が刑事事件を起こしたときには、事件の内容や企業が受けた影響などに鑑みて、上記のうちどれがもっとも適切かを判断し、適用しましょう。

懲戒解雇と解雇予告手当の関係

懲戒解雇をするときには「解雇予告手当を払わなくて良い」と考えている方がおられます。

しかし懲戒解雇でも基本的には解雇予告手当を支払わねばなりません。解雇予告手当の支給を免れるには、事前に労働基準監督署へ申請をして「除外認定」を受ける必要があります。

除外認定を受けるには、懲戒解雇相当である事実を証明する資料を提出し、説明を行って労基署に「懲戒解雇が相当である」と判断してもらわねばなりません。また「解雇日まで」に認定を受ける必要があります。手続きに時間や手間がかかるため、懲戒解雇すると決めたら、早めに管轄の労働基準監督署へ除外認定の申請をしましょう。

懲戒解雇の手順

従業員が刑事事件を起こして懲戒解雇を検討するなら、後で「無効」と言われてトラブルにならないよう以下の手順で進めていきましょう。

有罪になったことを確認する

まずは従業員が「有罪判決を受けた」事実を確認しましょう。不起訴処分や無罪判決の場合、そもそも「犯罪行為をした」ことにならないので、懲戒解雇は認められないと考えましょう。

解雇が相当かどうかを検討する

刑事事件で有罪判決を受けたとしても、懲戒解雇が相当かどうかは別問題です。従業員の勤続年数、貢献度、問題行為の内容、企業に与えた影響などの観点から、本当に懲戒解雇すべき事案かどうかを適切に判断しなければなりません。法律的な視点からの判断を要するので、迷ったときには弁護士に相談するのが良いでしょう。

弁明の機会を与える

本人には弁明の機会を与える必要があります。会社が考える懲戒解雇の理由を本人へ通知した上で、本人から話を聞く機会をもうけましょう。

解雇予告手当の除外認定を受ける

懲戒解雇すると決めたら、労働基準監督署へ申請を行い「除外認定」を受けましょう。認定を受けない場合には、30日前の解雇予告を行うか不足日数分の解雇予告手当を支給する必要があります。

解雇通知をする

準備が整ったら、懲戒解雇の通知をしましょう。

離職後の諸手続

解雇後5日以内に年金事務所へ「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出し、10日以内にハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を提出する必要があります。

住民税の納付方法を特別徴収にしていたなら、解雇の翌月10日までに「給与支払報告に係る給与所得異動届書」を役所へ提出しましょう。また解雇から1か月以内に退職者へ年度途中までの源泉徴収票を送付する必要があります。

まとめ

従業員が刑事事件を起こしたら、まずは有罪となるのかどうかを見守りましょう。有罪となった場合、就業規則に照らして妥当な懲戒処分を行います。必ずしも解雇できるとは限りません。迷ったときには弁護士に相談してみてください。

執筆者プロフィール

福谷陽子
法律ライター 元弁護士
弁護士としての経験は約10年。その経験をもとに、ライターへ転身後は法律や不動産関係の記事を積極的に執筆している。
弁護士時代は中小企業の顧問業、離婚や不倫など男女関係案件の取扱いが多く、浮気調査や探偵事務所の実情にも詳しい。
記事の作成だけではなく、編集やサイト設計、ディレクションやウェブコンテンツを利用したマーケティングのアドバイスなど、活動の幅を広げている。

運営サイト(元弁護士・法律ライター福谷陽子のblog)
https://legalharuka.com/433

運営youtubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC-vYz7An9GHWXsXjWKbmRdw

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本記事は探偵社PIOの編集部が企画・編集・監修を行いました。

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