背任罪とは何か?事例や処罰、横領罪との違いを詳しく解説

背任罪は企業や組織に重大な損害をもたらす可能性がある犯罪です。
本記事では、背任罪の定義や構成要件、具体的事例を詳しく解説するとともに、特別背任罪や横領罪との違いを明確にします。さらに、背任罪で告訴する場合の対策にも言及します。
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目次
そもそも刑法とは何か?

ここでは、背任罪の処罰について定めている刑法について解説します。刑法は日本の六法の1つです。
日本の六法とは
日本の六法とは、以下の6つの基本的な法律を指します。
- 憲法
- 民法
- 商法
- 刑法
- 民事訴訟法
- 刑事訴訟法
これらは日本の法体系の根幹をなす重要な法律とされています。刑法は、犯罪とそれに対する刑罰の関係を規定する法律です。
刑法の概要
刑法の定義と目的などの概要を説明します。
定義と目的
刑法は、犯罪となる行為と、それに対する刑罰を定めており、社会秩序の維持と個人の自由の保障を目的としています。
構成
刑法は以下のような構成となっています。
総則(第一編)
- 犯罪が成立するための要件
- 刑罰を科す時の基準
各則(第二編「罪」)
- 個別の犯罪の成立要件
- 具体的な刑罰内容
刑罰の種類
刑法には、以下のような刑罰が、犯罪ごとに定められています。
- 主刑
死刑、懲役、禁錮、罰金など - 付加刑
没収
刑法は、社会の秩序維持と個人の権利保護のバランスを取りながら、犯罪と刑罰の基準を明確に定めることで、法治国家の基盤を支える重要な法律といえます。
何を裁く為に刑法はあるのか?
刑法は、国が犯罪を行った人に刑罰を与える為の法律です。簡単に言えば、社会における禁止事項に背いた行動をとれば刑法の対象になります。
刑法247条に定められている背任罪とは

背任罪とは、刑法第247条に規定されている犯罪です。この罪は、他人から任された事務を処理する立場にある者が、その任務に背く行為をすることで成立します。
背任罪が成立する4つの条件
背任罪が成立するためには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 他人のために事務を処理する立場にあること
- 自己または第三者の利益を図る目的、または会社に損害を与える目的があること
- 任務に背く行為をすること
- 会社に財産上の損害を与えること
背任罪の特徴的な点は、行為者の目的が重要な要素となることです。単に損害を与えただけでは不十分で、自己や第三者の利益を図る目的、または本人が損害を与える目的をもって行動していることが重要です。この目的がない場合、たとえ損害が生じても背任罪は成立しません。
刑法第247条(背任罪)の条文
刑法第247条は、背任罪について規定しています。背任罪は日常生活でも起こりうる犯罪ですが、立証が難しいという特徴があります。
背任罪の条文(刑法第247条)は以下の通りです。
「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」
背任罪の構成要件
背任罪が成立するためには、4つの構成要件を全て満たす必要があり、以下に事例を挙げて解説します。
他人のためにその事務を処理する者であること
この要件は、他人(多くの場合は会社等の組織)から信頼を受けて事務処理を委託された人を指します。具体的には以下のような人が該当します。
具体的な事例
- 会社の従業員(正社員、アルバイト等)
- 委任契約に基づく受任者(弁護士、会計士等)
- 法人の取締役や理事
任務に背く行為(任務違背行為)をすること
任務違背行為とは、委託された事務処理を適切に行わない行為を指します。これには積極的な行為だけでなく、不作為による任務違背も含まれます。
具体的な事例
- 銀行員が資産のない人に無担保でお金を貸す(不正融資)
- 同業他社へ機密情報を漏らす
- 粉飾決算を行う
自己若しくは第三者の利益を図る目的、または本人に損害を加える目的があること
この要件は、行為者の主観的意図を問うものです。以下のいずれかの目的が必要です。
- 自己または第三者の利益を図る目的
- 本人(委託者)に損害を加える目的
どちらか一方の目的があれば十分であり、両方の目的が必要というわけではありません。
本人に財産上の損害を加えること
財産上の損害には、以下の2種類があります。
- 現存する財産を減少させる損害
- 得られるはずの利益が得られなかった損害
具体的な事例
- 明らかに損失が出ると分かっていながら取引を行う
- 情報提供により損失が出ると知りながら機密情報を渡す
注意点
- 背任罪は未遂罪も処罰の対象となります。
- 特別背任罪(会社法特別背任罪)は、株式会社の取締役等が対象となり、通常の背任罪より重い罰則が定められています。
背任罪は、事務処理者が意図的に任務に背き、自己や第三者の利益を図る、または委託者に損害を与える行為です。単なる過失ではなく、故意による行為であることが重要です。
背任罪の処罰

背任罪が成立した場合、以下の罰則が科されます。
背任罪の法定刑
- 5年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法247条)
注意すべき点として、背任罪は未遂でも処罰の対象となります。
特別背任罪の処罰
特別背任罪の場合は、より重い罰則が適用されます。
特別背任罪の法定刑
- 10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、またはその併科(会社法第960条)
背任罪の影響
背任罪は単なる金銭的損失にとどまらず、広範な影響を及ぼします。
- 信頼の喪失
取引先や顧客からの信頼を著しく損なわせます。 - 社会的評価の低下
企業の社会的評価が大きく下がり、ブランドイメージが損なわれます。 - 長期的な経営への影響
信用の回復には長い時間がかかり、取引先の減少や人材確保の困難など、長期にわたって経営に悪影響を及ぼす可能性があります。 - 法的リスク
被害者からの民事訴訟や、監督官庁からの行政処分などのリスクも高まります。 - 従業員のモラル低下
組織内の信頼関係が崩れ、従業員のモチベーションや倫理観にも悪影響を与える可能性があります。
背任罪は、直接的な刑事罰だけでなく、企業の存続にも関わる重大な結果をもたらす可能性がある犯罪です。そのため、企業はコンプライアンス体制の強化や従業員教育を通じて、背任行為の防止に努める必要があります。
背任罪と横領罪の違い

背任罪と横領罪は、他人の財産を不正に扱う犯罪として似ていますが、重要な違いがあります。これらの違いを理解することで、具体的な事案での適切な罪名の判断が可能になります。以下に主な相違点を解説します。
対象となる財産の範囲
- 背任罪
財物に限らず、財産上の利益や全体財産を含む - 横領罪
特定の財物のみ
背任罪は広範な財産を対象とし、無形の利益も含みます。一方、横領罪は具体的な物に限定されます。例えば、機密情報の漏洩は背任罪になる可能性がありますが、横領罪には該当しません。
行為の態様
- 背任罪
任務に背く行為全般 - 横領罪
自己または第三者のために領得する行為
背任罪は任務違背行為全般を対象とし、不作為も含みます。横領罪は財物を自分のものとして扱う積極的な行為が必要です。例えば、取引先との癒着による不利な契約締結は背任罪の可能性がありますが、横領罪には当たりません。
成立要件
- 背任罪
本人に財産上の損害を与えること - 横領罪
財物の領得があれば成立し、損害の発生は不要
背任罪は実際の損害発生が必要ですが、横領罪は財物を自己のものとして扱った時点で成立します。例えば、会社の金を一時的に私的に使用し、後で返済した場合、横領罪は成立しますが、背任罪は損害がないため成立しない可能性があります。
法定刑
- 背任罪
5年以下の懲役または50万円以下の罰金 - 業務上横領罪
10年以下の懲役
基本的な法定刑は同じですが、業務上横領の場合は刑が重くなります。これは、業務上の信頼関係がより重視されるためです。特別背任罪の場合は10年以下の懲役となり、さらに重い罰則が科されます。
適用の優先順位
- 横領罪が成立する場合、背任罪は成立しないとされる
両罪の要件を満たす場合、通常は横領罪が優先して適用されます。これは、横領罪がより具体的で特別な規定であるためです。ただし、事案によっては両罪の成立が認められる場合もあり、個別の状況に応じた判断が必要です。
占有の態様
- 背任罪
必ずしも占有を要しない - 横領罪
自己が占有する他人の物であることが前提
横領罪は自己が占有する他人の物を対象とするのに対し、背任罪は必ずしも占有を要しません。例えば、会社の経営判断に関わる背任行為は、具体的な物の占有がなくても成立する可能性があります。この違いにより、適用される範囲が異なります。
背任罪が成立しない場合

背任罪は、他人のために事務を処理する者が任務に背いて財産上の損害を与える犯罪ですが、以下のような場合には成立しません。これらの事例を理解することで、背任罪の適用範囲と限界をより明確に把握できます。
任務違背行為がない場合
- 正当な経営判断の範囲内の行為
- 会社の利益を図る目的で行った行為
経営者が十分な情報収集と検討の上で行った判断は、結果的に損失が生じても任務違背とはならない場合があります。例えば、新規事業への投資が失敗しても、適切なプロセスを経ていれば背任罪は成立しません。
図利加害目的がない場合
- 過失による損害の発生
- 善意の判断ミス
背任罪には故意が必要であり、単なる過失や善意の判断ミスは対象外です。例えば、市場動向を誤って予測し、結果的に会社に損失を与えた場合でも、故意がなければ背任罪は成立しません。
財産上の損害が発生していない場合
- 損害が発生する前に発覚した場合
- 損害が回復された場合
実際の財産的損害が必要です。例えば、不正な取引を計画したが計画段階で発覚した場合や、一時的に会社の資金を流用したが速やかに返済した場合は、背任罪は成立しない可能性が高くなります。
本人の同意がある場合
- 会社の承認を得ている場合
- 株主総会の決議がある場合
正当な手続きを経て本人(会社等)の同意を得ている場合、任務違背とはなりません。例えば、取締役会で承認された役員報酬の支払いは、たとえ高額でも背任罪には該当しません。
緊急避難的な行為の場合
- より大きな損害を避けるための行為
緊急時に会社の利益を守るための行為は、たとえ一部の損失を伴っても背任罪には該当しない場合があります。例えば、倒産を避けるために一部の資産を緊急処分する行為などが該当します。
横領罪が成立する場合
- 財物の領得行為がある場合は、横領罪が優先して適用される
具体的な財物の領得がある場合、通常は横領罪が適用されます。例えば、会社の現金を私的に使用した場合は、背任罪ではなく横領罪として扱われる可能性が高くなります。
背任罪で告発する際の対応

背任罪で告発する場合には、以下の点に注意して対応することが重要です。
証拠の収集と保全
- 客観的な証拠(書類、データ、取引記録など)を可能な限り収集する
- 証拠隠滅を防ぐため、迅速に行動する
弁護士への相談
- 経験豊富な刑事弁護士に早期に相談する
- 法的アドバイスを受け、適切な戦略を立てる
警察への届出
- 被害届または告訴状を提出する
- 事実関係を明確に説明し、収集した証拠を提示する
内部調査の実施
- 社内で詳細な調査を行い、被害の全容を把握する
- 関係者へのヒアリングを慎重に行う
懲戒処分の検討
- 就業規則に基づいた適切な懲戒処分を検討する
- 処分の根拠となる証拠を明確にする
損害回復の対策
- 民事訴訟や示談交渉の可能性を検討する
- 被害額の算定を正確に行う
再発防止策の策定
- 内部統制やコンプライアンス体制の見直しを行う
- 従業員教育の強化を図る
メディア対応の準備
- 必要に応じて、適切な情報開示の準備をする
- 会社の信用維持に努める
背任罪の告発は企業にとって重大な決断となるため、慎重かつ迅速な対応が求められます。法的リスクを最小限に抑えつつ、適切な措置を講じることが重要です。
背任罪に時効はあるのか

背任罪には時効があり、その期間は5年です。これは刑事訴訟法第250条2項5号に基づいています。ただし、特別背任罪の場合は時効期間が7年となります。
時効の起算点は、一般的に犯罪行為が終了した時点からですが、継続的な犯罪の場合や発覚が遅れた場合は、その解釈が異なる可能性があります。
背任行為の疑いがある場合の対応
- 社内調査には慎重を期す必要があります。不適切な調査は証拠隠滅のリスクを高める可能性があります。
- 専門家への相談が推奨されます。弁護士や公認会計士、場合によっては探偵など、適切な専門家に調査を依頼することで、適法かつ効果的な証拠収集が可能になります。
- 時効を意識しつつ、迅速な対応が重要です。疑いが生じた時点で速やかに行動を起こすことで、時効によって訴追の機会を逃すリスクを減らせます。
- 内部通報制度の整備など、背任行為を早期に発見できる体制作りも重要です。
背任罪の立証は複雑で難しい場合が多いため、専門家の助言を得ながら慎重に対応することが重要です。
まとめ

この記事では、背任罪について解説しました。背任罪は、他人のために事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図る目的で任務に背き、本人に財産上の損害を与える犯罪です。
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この記事の著者:探偵社PIO 調査員 Y.K
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